第15号「雑感」山本卓曹

第15号「雑感」2007.12.21配信

 当地(広島)沿岸の紅葉の山も、落ち葉となり冬山の様相を現す師走となりました。財団法人日本漢字能力検定協会が、その年をイメージする漢字一字の公募を日本全国より行い其の中で最も応募数の多かった漢字一字を其の年の世相を現す漢字として毎年12月12日の「漢字の日」に京都市東山区の清水寺で今年の漢字は「偽―ギ・いつわる・にせ」と揮毫されたことは皆様のご存知のとおりです。

 人が為す行為と組み合わされた漢字は「いつわる」行為が人に拠るものであることを意図された象形であると思えば「なるほど」の感もしますが、今年72歳を迎えた小生にとってもこれまで以上に「偽」を見抜く力を求められても、正直なところ「いい加減にして欲しい」と思いますし同様に、公務の世界でも社保庁・防衛省などの不祥事をテレビなどで、見聞するとき、全ての報道を鵜呑みには出来ませんが、今まで信じてきたものが信じられなくなった風潮に憤りと不安を感じるのは小生のみではないと思います。

 さて、小生の所属する「さとうみ」は平成15年11月に発足して4年を経過しました。現在は70名の会員で構成されています。昨年の8月からは、小さいながらも広島市内の比較的便利な場所に事務所を設置し2名のボランテアの協力を得ながら主に、

 ① 海辺の自然学校運営(広島・岡山・山口各県)
 ② 地域と協働した海辺(干潟)の環境学習
 ③ みなとの賑わいを創生する「みなと七夕祭り」
 ④ 循環型社会構築を目指した代替材の生物への影響調査
 ⑤ 人工干潟の有効活用の実態と浚渫土・代替材に対する住民意識調査(アンケート)

など活動して参りました。

 これも皆様のご支援の賜物と紙面をお借りして御礼申し上げます。

 私は「論より証拠」と言っているのですが実際にその「場」に立ち「経験」し考えてみることが大切であること、所謂「実践」そのものが、当会の原点であると考えております。幸なことに、松田治広島大学名誉教授のお言葉をお借りすると、今では「さとうみ」の言葉は台風と同じように海外でも「satoumi」として認知されているようですが国内では、あまり知られていないのが実情です。

 そのような観点から、誰でもが簡単に海に接することが少なくなっている昨今の「海離れ」現象の原因は何処なのか又今後のあり方など私見を含めて考えてみたいと思います。

 40年後半から始まった海離れ現象は各学校においてプールが作られ、まず、子供たちが海で泳ぐことが少なくなるという海離れが生じました。又比較的裕福な大人達はプレジャーボートなどによる海への楽しみ方に変わりましたが、船つき場所の不足などから不法係留が多くなり問題を生じました。加えて、魚釣り客を対象に漁協組合員の中に遊漁船の運営を専ら行う方も増えてまいりました。

 このように、日常的に人が気軽に海に関わる遊びとしての「磯遊び・貝堀・磯からの魚釣り」など海と陸を繋ぐ接点である「浜・磯・海浜・干潟」の遊びが少なくなった、とりわけ都心部では顕著となってまいりました。経済活動を中心とした利便を求め、それに伴う海への接し方が変わってきたと思いますし港湾・漁港施設がこれらを加速させたのかもしれませが、それより増して自営業が多かった職業からサラリーマンが増大し地域に根ざした人が少なくなり海に関係する方々の利害関係が大きく取り上げられ一般の方々が参加できる機会が少なかったことも要因の一つと考えられます。

 私どもが行っています「みなと七夕祭り」はアンケートを兼ねた短冊を用意しそれに伴う「願い事」を書いて頂くことを取り組んでまいりました。3年目を迎えますが3歳から80歳の幅広い年齢層に書いて頂くのですが、何方も「綺麗な海」を期待され・あこがれています。

 しかし、人口の増大・生活排など陸側からの受け皿として海は何も語らず常に従順に受け入れてまいりましたが一方漁業生産活動から発生すると思われるゴミなども増えてまいりました。

 期待され、あこがれている「綺麗な海」は一夜で変わったのではなく諸々の要因から長年にかけて変化したもので、場所によれば埋没ゴミの宝庫といえそうな海域もありますし砂浜の汚れも目立つようになりました。

 私どもは、漁業の生産場所でもあり、かつ浄化機能を持つ干潟に強い関心を持ち取り組んでまいりました。その1つである環境学習についてご紹介します。

 昨年地域の方々と協働のもと(国土交通省・尾道市教育委員会・福山大学・浦島漁業協同組合・瀬戸内海援隊・浦崎小学校5年生・浦崎小学校の先生・父兄)四季を通じて「海老干潟」の里海学習を実施しました。

 5年生全員の発表は以下の通りでした。(抜粋)

「里海学習とは、ふるさとの海である里海、海老干潟に住んでいる生き物を調査したり、条件を変えたところにアサリを撒いて生育状況を調べたり海の環境を守るためにゴミ拾いをし、ふるさとの海について学ぶ学習です。

 まず、干潟についてお話しします。干潟は、砂や泥が長い年月をかけてゆっくりつもった所で、潮が引いたときに現れる遠浅の浜です。たくさんの生物が住んでいます。

 この写真は私たちが調査した海老干潟の写真です。浦崎町の海老干潟は人工の干潟で、松永湾で大きな船を通る道を造るために、海の底を掘ったときに出てきた土砂を持ってきてつくりました。海岸からおよそ200mのところに石を積んで堤防をつくり土砂を入れ、最後に砂で表面をおおいました。潮が満ちてくると見えなくなってしまいます、天然の干潟は浦崎町では永田・下組・高尾に残っています。

 里海での調査はベルトトランセクト調査とコドラード調査の2つの調査があります。はじめにベルトトランセクト調査についてお伝えします。

 1つめの方法は道路側から波打ち際までの縦90cm・横10cmの範囲を6つの場所に分けて、一辺が25cmの四角形の枠の中の「ホソウミニナ」「アラムシロ」「ヤドカリの巣穴」の数を数える調査です。

 コドラード調査についてお伝えします。
コドラード調査は、アサリに赤・青・黄色のスプレーをかけて色をつけアサリを
道路側(上側)と浪打ぎわ(下層)のそれぞれ3つの場所に放します。アサリの数
はそれぞれの中に117個入れました。

 1つ目の場所には上と下に網を張り、2つ目の場所には下だけに網を張り、3つ目の場所には網を張らないでどれだけ育ったか、数はどのように変化したかを調査していきます。

 毎回、1辺が20cmの正方形の中をスコップでほって、その中のアサリの重さや殻の長さを測ったり、そこにいたアサリの数を数えます。そして、次の里海学習の時には、どれだけ大きくなったか、どれだけアサリの数が減ったかを調査します。その結果、場所によって違いがあったけれど、やはり、網を上と下に張った場所にいたアサリのほうが、食べられずにそだっていました。

 調査結果から考えられること
ベルトトランセクト調査では形が良く似ていることから「アラムシロ」と「ホソウミニナ」と間違え何回も数え直しをしました。生き物は夏から秋にかけて多いことがわかりました。水温の差によって増えたり減ったりするのかなと思いました。

 コドラード調査から私たちは次のことを考えました。殻の長さはどの場所でも5~7月にかけてはあまり大きくなっていなかったけれど、7月~12月にかけてだんだん大きくなり12月にはすべての場所で1~4mmの成長が見られ波打ち際の方が生育が良かった。重さについても同じことが言えます。

 紙面の都合上詳細をご紹介出来ませんが、このように干潟観察などを通じて干潟を大切にする気持ちを育むことが出来たのではないかと思いますし、地域の方々も大切な財産として取り扱って頂けることに期待が持てる実践活動であると思っています。

 今年度は内容を代え昨年の後輩5年生が里海学習に取り組んでおり、来年2月20日に地域の方々が参加のもと発表会が行われます。

 他方、渡船などを利用して防波堤に上がり釣りをしている人を見かけます。防波堤は釣りをする人にとって最適な場所でもあるようですし、海浜・沖・岸壁
の魚の数・大きさを調べると岸壁(含む防波堤)が最も魚影が濃いとのデータもあります。

 とするならば、基礎捨石に工夫などを加え海藻が生育しやすい素材と範囲を広げるなどの共生型の施設を真剣に取り組む必要があるような気がいたします。当然のことながら安全については留意する必要がありますが従来の制度に留まらず発想を広げる必要がありそうです。

 又、海浜に隣接している建物については出来るだけ少なくし、景観をオープンにし海が見られ、海の匂いを感じさせることも必要で、ひいては高潮対策などに資する「まちづくり」などの発想が臨機部にも必要な感じが致します。

 来年の世相を一言で表すことは、冒頭に述べたとおりですが、平成7年から始まった漢字を並べると以下のとおりです。

震(しん)・食(しょく)・倒(とう)・毒(どく)・末(まつ)・金(きん)・戦((せん)・帰(き)・虎(とら)・災(さい)・愛(あい)・命(いのち)・偽(ぎ)

当会の発足した平成11年度から語呂合わせをしながら並べると、

 虎(イラク戦争)の内線が災(新潟地震)となったが、新しい愛(女性の活躍)をはぐくみ命(医師不足)を大切にして偽りのない社会を目指して来年は「明」るい年でありますようにーー

と願い当会の活動の場である瀬戸内海の各種団体と協働が出来るよう頑張って参りたいと考えております。(平成19年12月17日記)

NPO法人 瀬戸内里海振興会 山本卓曹

2007年12月21日