第224号「『ブルーカーボン』をはやりで終わらせないために」2025.5.30配信
地球温暖化、海洋の危機への対応は転換点を迎えています。国際的な枠組みとして、アジェンダ2030(2015)として決定されたSDGs、気候変動枠組条約の下のパリ協定(2015)、生物多様性条約の下での昆明・モントリオール生物多様性枠組み(2022)があり、そうした国際規範に基づき各国が対応を進めています。目標設定や規制を中心としてきた国際規範が、具体の行動を促す、自主的な参画を促すシステムへと変化してきているようです。日本でも、ブルーカーボンのインベントリ報告ⅰ、国が決定する貢献(NDC)の提出ⅱなどで国際社会での責務の全うを表明するとともに、国内行政では、国交省のブルーインフラ政策ⅲ、環境省の令和の里海づくりⅳ、水産庁の藻場再生ビジョンの改訂ⅴ・研究事業の推進ⅵなどが精力的に実施されてきています。こうした動きに注目し、行動する企業・市民も増えてきました。そうした行動を促す国際的な取り組みとして、今年(2025年)4月28日から3日間、韓国釜山で第10回Our Ocean Conference (OOC:私たちの海洋) 会議が開催されましたⅶ。これは、ジョン・ケリー元米国国務長官が2014年に始めた会議で、最新の海洋問題に関する意見交換をするだけでなく、実際にそうした海洋問題を解決するために実施する約束(コミットメント)を投資金額とともに発表するというユニークな会議です。第1回以降、コミットメントの数は2,600件、約束金額は1,400憶ドルを超え、実施率も80%以上となっています。自ら宣言し、相互監視の下で事業を進めるというシステムが機能していることが伺えます。
今回のOOCでは、海洋保護区、ブルーエコノミー、気候変動、持続可能な漁業、海洋汚染の他、海洋の安全保障や、海洋デジタルの推進が議論の中心になりました。特に海の生産性・生物多様性の礎となるブルーカーボン生態系の保全・再生は、多くのテーマに関係する基盤的な取組みとして、多くのセッションやサイドイベントで取り上げられました。東アジア海域環境管理パートナーシップ(PEMSEA)ⅷは、30by30の達成にむけた連携行動の推進をテーマにしたサイドイベントを主催し、その中で国際的な目標設定の下、地域での行動戦略を立て、ローカルの行動を実施する枠組みの必要性、科学との連携と能力開発の重要性が強調されました。
PEMSEAでは2017年以降ブルーカーボンについて地域戦略を検討してきましたⅸ。現在、ブルーカーボン技術ワーキンググループを設置し、東アジア地域におけるブルーカーボン認証の枠組みとそれに基づくブルーカーボンマーケットの創出に向けた議論を進めています。その中で、ブルーカーボンの多面的機能と共益(コベネフィット)自主的なマーケットの創出、各国の状況の違いに対応できる制度設計などが中心的な議論となっています。
日本では、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が運営しているJブルークレジットの認証制度ⅹ、それに参画する市民・漁業者・企業・行政などの連携体制ⅺ、さらにはブルーカーボンについての啓発活動や若者の参画ⅻなどが他国に先んじている状況です。日本の行政・企業・市民・若者が一丸となって東アジアの引いては世界のブルーカーボン生態系の保全・再生のけん引役となってほしいと願っています。
ⅰ ブルーカーボンに関する報告、国土交通省
ⅱ 次期NDCの提出について、環境省
ⅲ 命を育むみなとのブルーインフラ拡大プロジェクト、国土交通省
ⅳ BLUE CARBON、環境省
ⅴ「藻場・干潟ビジョン」の改訂について、農林水産省
ⅵ FRA NEWS 特集ブルーカーボン、水産研究・教育機構
ⅶ 第10回アワ・オーシャン(私たちの海洋)会議、内閣府
ⅷ PEMSEA、国土交通省
ⅸ PEMSEA Blue Carbon Program, PEMSEA(英語)
ⅹ Jブルークレジット認証・発行/公募/認証申請等、JBE
ⅺ 例えば、東京湾UMIプロジェクト、関東地方整備局
ⅻ 例えば、海辺の自然再生・高校生サミット、海辺つくり研究会・共存の森ネットワーク
NPO法人海辺つくり研究会理事長/PEMSEA技術会合議長 古川恵太
https://umibeken.jp/
2025年5月14日|キーワード:ブルーカーボン