第207号「富山高専の練習船“若潮丸”代船誕生へ ~未来の海洋人材育成のために~」國枝佳明

第207号「富山高専の練習船“若潮丸”代船誕生へ ~未来の海洋人材育成のために~」2023.12.28配信

 中学校卒業後の15歳から5年間一貫して専門教育を行う高等専門学校(以下、「高専」)は、教室で行う講義に加えて実験・実習を多く取り入れることによって知識のみならず、実務に則した技術が修得できる高等教育機関です。最近では海外でも日本独特の教育制度として「KOSEN」として知られるようになり、モンゴルやタイに高専教育が取り入れられています。また、ベトナムをはじめとしたアジア諸国やアフリカ諸国が高専教育に強い関心を持ち、自国の教育制度に取り入れようとする動きがあります。
全国には、国公私立の高専が58校あり、国立高専51校の中に商船系の高専が5校あります。将来、外航船の航海士や船長を目指す学生が学ぶ商船系高専の実験・実習に欠かせない設備が練習船です。令和5年度文部科学省補正予算において、「災害支援機能を有する高等専門学校練習船整備事業」として、鳥羽商船高専の「鳥羽丸」の2年目及び富山高専の「若潮丸」の1年目の代船建造が認められました。全国にある5校の商船系高専の練習船は建造後約30年経過し、老朽化が著しく部品の調達もままならない状況でした。そこでシリーズ船として古い練習船から順次更新することをお願いし、今年3月には大島商船高専の「大島丸」が就航しました。来年は弓削商船高専の「弓削丸」、その次の年に鳥羽商船高専の「鳥羽丸」、そして令和8年に富山高専の「若潮丸」が就航する予定になったわけです。
補正予算の事業名にありますように、「災害支援機能を有する練習船」ということで、災害時に人や物資の輸送を担うことを想定して建造されることになります。5校の商船系高専唯一の日本海側の練習船であることから、富山県以外にも災害支援に馳せ参じることも考えられ、船だからこそ災害時でも大量の人や物資を輸送できる利点を最大限活用することが期待されています。たとえ災害で直接港に入れなくとも、沖から搭載している小型舟艇によって輸送が可能となります。富山県内でも新潟県や石川県との県境は山が海岸近くまで迫っていて、大雨などによる土砂崩れが発生した場合は道路が寸断されて孤立集落となる可能性が多々あります。このような状況において、災害支援機能を有した練習船が活躍できるものと考えています。
富山湾は太平洋側の駿河湾と並んで日本を代表する深い湾のひとつです。富山湾は海岸近くから急に深くなって、すぐに1,000メートルに達っする珍しい湾です。そのような湾を舞台に活躍する若潮丸には、海洋調査の機能を装備し、各種調査を行うことで、水産関係のみならず、海洋環境、地球環境保全に貢献できるものと期待されています。シリーズ船として建造される練習船の代船は、外観はほぼ同じになりますが、若潮丸は唯一Aフレームと呼ばれるクレーンシステムを船尾に装備し、水中観測器CTD(Conductive-Temperature-Dept Profiler)による深海の各種観測ができるようになります。
練習船ですから学生の教育・訓練が最大の目的であり、最新鋭の設備、機器を搭載して現代の海上輸送、さらには将来の海上輸送に適した教育・訓練が展開されるよう工夫がされる予定です。例えば自律運航船に対応した教育や地球環境を考えた船舶運航システム、AIを活用した船舶保全システムなどの装備が計画されています。未来の物流システムをも牽引する次世代の海洋技術者の育成に寄与することが期待されています。
 また、四面を海に囲まれ、輸出入の99.6%を海運に頼っている日本の次世代を担う子供たちに海や船、そして海運や海事社会を身近に感じ、知っていただくための体験航海や海洋調査体験などの広報活動も実施する予定にしています。2年半後、新若潮丸が就航するのを楽しみにしていただければと思います。

独立行政法人 国立高等専門学校機構 理事
富山高等専門学校 校長 國枝 佳明
https://www.nc-toyama.ac.jp/
2023年12月1日|キーワード:海洋、教育