第144号「海洋教育にベントスの視点を」海上智央

第144号「海洋教育にベントスの視点を」2018.9.28配信

 

 今年度から理事に就任いたしました海上(うながみ)です。よく海沿いの出身ですか?と聞かれますが生まれ育ったのは海がない埼玉県です。海との関わりは大学生になってからでした。もともと生物が好きで生物系を目指していた時に、東京湾の干潟で活動する先生を知り、東邦大学へ入学しました。そこで初めて干潟とそこに生きる生物(ベントス)に出会いました。ベントスとは水生生物を生活のタイプで分けた1つで、浮遊して生活するプランクトン(クラゲなど)や流れに逆らって泳げるネクトン(魚類など)と違い、浮かぶことも泳ぐこともできないカニや貝などの生物を表します。
 ベントスの面白いところは一見何もいないような砂を掘ったり、石をひっくり返したりすると、ワラワラと見つかり、短時間で数十種類!にも及ぶ生物が見つかるところです。また姿形や生活が奇抜なものも多く、地球外生命体のようなツバサゴカイやヤミヨキセワタ、埋もれて生きるウモレベンケイガイなどなど、いつも宝探しのように夢中になって探しています。またその中でそれらを愛でる変わった大人たちにも出会いました。奇妙な生物とそこに関わる個性的で愉快な人々を知れば知るほど、その面白さにどっぷりとはまっていきました。私と海との関わりは常にベントスと一緒でした。
 卒業後は様々な主体(環境省、NPOなど)の干潟調査に携わり、様々な地域に足を運びました。また東京湾では現在も毎月潜って調査を行っています。凍える冬の調査もベントスを観察している間は寒さを忘れてしまうくらい興奮します。私もすっかりベントスを愛でる変な大人になってしまいました(笑)
 これらの経験は海と人との関係を考える海洋教育の実践に活きています。干潟の観察会を開催するだけでなく、ベントスの面白さに気付いてもらう教材として、アサリの殻の芸術性に注目した「アサリの神経衰弱ゲーム」やカニの運動能力の高さに気付いてもらう「クロベンケイガニのボルダリングボード」などを開発しました。
 CNACでは「ナニコレ?!海あそびレシピ」の編集に携わらせていただきました。CNACは全国の海で活動する人が集まった団体のため、どこでも使えるように編集したつもりです。しかし結果はまったく同じにならないと思っています。日本の海の環境とそこに生きる生物はあまりに多様で、それは地域の文化・風習・料理にもよく表れています。特にベントスはプラクトンや魚類に比べて移動能力が低いので、ある地域では普通に見られる生物でも他の地域では絶滅寸前の種もいます。同じ湾でも場所が違えば出てくる生物も違います。このように海をベントスの視点で見ると、地域によって様々な違いや特長があります。海洋教育活動のネタはそれぞれの地域に山ほどあると思っています!
 私はCNACでの活動を通して、プログラムや教材の開発を行うなど、目の前の海の面白さや大切さを伝えるお手伝いができればと思っています。その中でCNAC会員の地元の海の特長を生かした、地域独自の海あそびレシピ集も作れると思います。いずれは日本全国のプログラムを集めた海あそびレシピ大全(仮)を出せたらいいなという野望もあります(笑)そのような本はまだ日本にはありません。ぜひCNACでまとめたいと思います。そのためにまず皆さんと一緒に一歩一歩歩んでいきたいと思います。これからどうぞよろしくお願いいたします。

 

CNAC理事 海上智央
株式会社自然教育研究センター http://www.ces-net.jp/

2018年09月25日|キーワード:干潟、教育